ぼくには力がない。 キャプテンでも扱うのに苦労するような大剣を振り回したり、ラムセくらいだったら片手で肩に担ぐことも出来るし、決して体力があるわけではないけれど、そういう意味での力なら、人並みにはある。 だけど、やっぱりぼくには力がない。 ひとくせもふたくせもあるみんなを結局のところ纏め上げているのはキャプテンで、道に迷ったときに地図とよくわからない機械を見て向かうはずだった方向を指さすのはラムセで、たくさんのひとの前に立って演説めいたなにかをするとき言うべき言葉を与えてくれるのはミカエラで、いつも先陣切って魔物の群れに飛び込んでいってぼくらの進む道を作ってくれるのはシャムシールだった。 ぼくはいつも誰かの後ろを歩くだけ。 ただ剣を振り回して魔物やひとを簡単に殺すことが出来るだけで、集団を纏め上げるカリスマ性も、なにか専門的な技術も、ひとを動かすことの出来る言葉も、誰かの進む道を作ることも、なにも出来ない。 ミカエラに与えられた勇者の役割の上に乗っかって、まわりのみんながぼくを勇者にしてくれているだけで、世界を救おうとしているのはぼくを勇者にしているみんなだし、世界を救う力があるのは、勇者を名乗ってるぼくなんかじゃなくて、周りのみんなだ。 ぼくには世界を救う力なんかない。 ぼくには世界を救える力なんかない。 ぼくには、力なんかない。 すこしも。 ぼくの行為や行動や言葉のどこにも、力なんて宿ってはいない。 「ぼくは、」 ぼくでは、世界は愚か、 「きみが、」 目の前に佇む彼女を救うことも出来ない。 ぼくの言葉を遮るようにして、緑のスカーフと黒い髪が海風に舞う。 「きみが」 先を促すのとは全く逆の雰囲気の彼女の微笑みに、(ぼくは、)言いかけた(きみが)言葉を(すきだ。)また飲み込んだ。 いつものように。 力が欲しい。強い魔物と戦うときよりも、大勢の国民を前にするときよりも、世界の危機と対峙するときよりも、強く強く、そう思った。 彼女の微笑みが、あまりにも、悲しそうだから。 (きっと、きみを、あいしてる。) (061003 これは禁句です。 |