crushed



「あなたなら、代わりになれると思うの。」
 耳元で、小柄な魔術師が囁いた。
「ねえ、イア、」
 声が鼓膜を震わせ、
「フェルの、代わりに、」
 魔術師の言葉に、心臓がどくんと脈打つのを感じた。
 フェル。
 フェルナンド。
 王子。
 仕えるべき主君。
 白い肌と青い瞳、細く緩やかな金髪。
 大剣を軽軽と振り回すその華奢な腕、常に柔らかく微笑むその顔。
 金糸で装飾された青空と同じ色のバンダナ、妹姫の遺品の焼け焦げたペンダント。
 すべてが、
「イア。」
 赤い。
「イア、」
 白い肌も、青い瞳も、柔らかそうな金髪も、華奢な腕も、笑顔の絶えることのない顔も、青いバンダナも、黒いペンダントも。
 すべてが。
 赤く、染まって、夕焼けよりも、炎よりも、赤く赤く赤く赤く、あかく、あかく、染まって、あかくそまって。
「イア。」
 魔術師の言葉も、唸る風の音も、砂漠の姫がなにかをいうのも、すべて、なにも、聞こえない。
 ただひたすらに手を伸ばし、
「イア。」
 ゆっくりと手に取った。
 ああやっと、てにはいった。
 絶望と、安堵。安堵と、絶望。
 手の中の、王子。かつて、王子だったもの。いや、たとえどんな姿になろうと、王子は、王子だ。
 どんなに醜い姿になっていようと。
 どんなに醜くく潰れた死体になっていようと、原型も留めないほどにあかくあかく染まっていようとも。
「これは、どういうことですか。」
「見ての通り。イアの機体が、誤って…そう、誤って、フェルを潰しちゃった。誤って、ね。」
「フェル、ナンド、」
「シャム、少しだけ、我慢しててね。」
 イア。
 魔術師に名前を呼ばれ、肩を掴まれた。
「ねえ、イア。フェルが死んじゃったわ。」
 いや、王子は死んでなどいない。こうやって、腕の中に、
「あなたなら、フェルの代わりになれると思うの。」
 こうやって、腕の中に、あかいまま、あかく、あかく、王子が、
「ねえ、イア、」
 王子、
「フェルの、」
 王子、
「代わりに、」
 おうじ
「しんでちょうだい。」
 瞬間、首から上をなくし赤い血を噴き出させている自分の身体と、その背後にシミターを構えた砂漠の姫、そして小柄な魔術師の姿が一枚絵のような視界に映った。
 砂漠の姫の涙と、魔術師の笑みが、見えた。
 やっとてにいれた、おうじは、みえなかった。







「さて、ご気分はどうかな、勇者さま?」
 気分?
「イアが死んだよ。」
 ラムセが?
「そう、フェルの代わりに、イアが死んじゃった。わかる?」
 よく…わからない。首を振った。
「ふうん、まあ、いいや。」
 ミカエラは、にこり、と笑う。
「フェルは生きてる、代わりに、イアは死んでる。ただ、それだけだよ。」
 ぼうっとする頭に、ミカエラの呪いの言葉が響いた。

<BadEnd>



(060729イアシナリオバッドエンド。
こうして彼は愛するひとの礎になりました。他人の命と引き換えて自身の生命を永らえる、呪い。
バトルでフェルを倒してしまうと一撃バッドエンドとかいうシステム。仲間になってるキャラによって多少の終わり(イアの死に)方が違う、所謂マルチ。イアは特殊全体攻撃技(がんだ騎乗)が味方にもヒットする使えるようで使えないユニットなんだきっと。そんなゲーム脳。