【君の味方】5のお題
(ソラとショウ♀)

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1.君の笑顔も涙も全部抱きしめてあげる


 ぼくと彼女の相互関係を簡単に表現するのに、これほどベタで分かり易い言葉は他にはないと思う。
 幼馴染。
 幼稚園の頃から彼女の給食の牛乳はぼくが代わりに飲んでいたし、小学校時代の六年間はずっと一緒に登校をしていたし、中学校にあがってからも変わらず彼女は月曜日にぼくの家にやって来てジャンプを読んでいた。ゆうに人生の半分以上、大半の日を彼女と過ごしたと言っても過言ではない。
「ソラ、なに見てるの?」
 こうやって土曜日の深夜、天体観測をするぼくの傍に彼女がいることも、高校生になったいまでも変わらない。
「星。」
「それは分かってるよ。ソラは相変わらず笑いを分かってないね。」
「うん。」
「うん、じゃないよー。」
 あはは、と彼女は呆れたように笑った。
 彼女の名前は、ショウ。女子バスケ部の副部長で、牛乳と牛肉がきらいで、だからか背が小さい(まだ150ないって嘆いていた)。
「いいなー、ソラは。」
 望遠鏡を覗くぼくの隣で、ショウが言う。もう夜になっているとは言っても、季節も夏だし、マンションの屋上、つまりコンクリートの上に体育座りをするのは熱くないのかなあと、勝手に少し心配してみる。
「なにが?」
「悩みとか、なさそう。」
 ひとが望遠鏡覗いてるからって、結構な言い草だね。
「ぼくにだって、悩みくらいあるよ。」
「あ…うん、そっか、ごめん。」
「いや、別に謝らなくても。」
「うん。ごめん。ごめん、ソラ。」
 小さい頃からずっと一緒だった。望遠鏡を覗くぼくの隣には彼女がいた。
 だから、分かる。望遠鏡を覗いたままでも、分かる。
「ショウ、」
「ごめん。なんでもないんだ。」
 彼女が笑っているのか、怒っているのか、悲しんでいるのか。泣いているのか。
「ショウ、」
 望遠鏡から顔を離して、
「ソラ、どうしよう、ぼく、」
 体育座りをしているショウを振り返る。
 そして、
「すきな子ができた。」
 伸ばしかけた手を、情けなく、引っ込めた。
(ぼくは)(ぼくとショウは)(いつまでも、)(変われない。)


(060702(全部抱き締めてあげれればいいのに。抱き締めたいのに。
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2.君が迷わないように道を照らす灯火となろう


 夏の夜、星空の下。望遠鏡と、体育座りで座るショウと、立ち尽くしなにも出来ないぼく。
「すきな子ができた。」
 そう言って、ショウは黙った。ぼくの言葉を待っているような、間。だけどぼくはなにも言えなかった。
「そ、そう、なんだ。」
 一瞬にしてからからになった咽喉で、辛うじてそれだけ言うのが限界だった。いくら待たれても、気の利いた言葉なんて、言えない。
「なんだよ、素っ気ないな。ぼくの話なんか興味ないっていうんだろ、どうせ。」
「そ、そんなことないよ。」
「いいよ、ソラに話したぼくが馬鹿だったんだ。ソラは星にしか興味ないもんな。分かってるよ。」
「いや、聞く、聞くよ。で、誰なの、その子って?」
「だから、いいって。ソラは空でも見てたらいいじゃん。ほら早くしないと朝になっちゃうぜ?」
 流石にならないよ、まだ二時だし。
 急に立ち上がったショウにどんと背中を押されて、望遠鏡の方へつんのめる。もう少しで望遠鏡と一緒に転ぶところだった、危ない危ない。慌ててショウを振り返ろうとすると「こっち見んな!星でも見てろ!」凄い剣幕で怒鳴られた。な、なんで?びっくりしすぎてなんにも言えなくて、ぼくは言われた通りに望遠鏡を覗くことしか出来なかった。頭の隅で、なにやってるんだぼくは!そう、微かに思った。
 慌てすぎてて、どこを見ているのかも分からない。覗いてるのは空なのかどうかも分からない状態で、だけどぼくはその黒い円の中を覗き続けた。ショウがなにかを言ってくれるまで。真っ暗な円の中は、ぐるぐるするぼくの感情のようだと、星ひとつない視界が寂しくて適当に思考することに逃げる。
「バスケ部の、マネージャーなんだ。」
 ショウが言った。一年のなんとかちゃん、聞いたことのないような感じの名前をショウは口にして、ぼくの耳には聞きなれない音だったので人間の名前として認識さなかったのか、よく聞き取れなかった。…嘘だよ。聞き取れなかったのは本当だけど、それはただ聞きたくなかっただけだと思う。耳を塞いだわけでもないのに。
「おんなのこ。」
「お、女の子?」
「そう。おんなのこ。」
 ショウはその少し高い声で、何度か、繰り返した。女の子。
「馬鹿だろ、ぼく。」
 自嘲気味に笑う声。少しだけ語尾が上ずっていて、ああ駄目だショウそのままじゃきみ泣いちゃうんじゃないか、ぼくはそう思った。いやだよきみが泣いているとぼくも泣きそうになってしまうんだ昔から。
「ごめんな、ソラ。また、こんな話してさ。」
 また、こんな話。ショウはそうやって何回か傷ついて、その度に立ち上がっていた。ぼくはずっとそれを見てきていた。助けることも、力になることも出来ずに、意味のない励ましの言葉をかけて彼女の傍にいた。
「でもソラに大丈夫だよって、頑張ってって、言って欲しかったんだ。」
 無理だよ。
 いやだよ。
 もうそんなこと言いたくない。
 だってそんなことしたら、
「そしたらぼく、頑張れる。」
 またきみはぼくから離れて行ってしまうんだろ?


(060702(照らす道を間違えた振りしてぼくの方へ導きたいと、思うだけで、なにも出来ない。
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3.必ず誰かが誰かの事を思っている
4.待っててあげる 帰る場所はいつでもここに
5.たとえ最後の1人になっても信じてる


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お題配布元さま:starry-tales