「○○ちゃん。」
 それがわたしの名前。
「○○ちゃん、今日一緒帰ろっかー。」
 いつもは部活が終わって皆が帰った後もひとり残って練習をしている先輩が、そう言ってわたしの肩を叩いた。
「先輩、もう帰るんですか?」
「おれが帰ったらおかしい?」
「あ、うんと、そうじゃなくて…いつももうちょっと遅いじゃないですか、だから。」
「ああ、そっか。今日はいいや。それより○○ちゃんと帰りたい。」
 そう言って先輩は笑った。
 わたしもつられた振りをして、笑った。
「あ、○○ちゃん、」
 先輩が声を詰まらせる。
「なんですか?先輩。」
 わたしは笑うのをやめて先輩に訊いた。
「えっと、な、なんでも…ない。」
 そうですか。気にしていない風にそう短く言う。
「そういえばさ、○○ちゃん、」
 先輩は、バスケ部の先輩で、背が小さいのをとても気にしていて、だけどバスケが上手くて、ちょっと童顔で、笑うと中学生みたいで、名前はショウ。
「先輩、元気?」
 先輩が先輩と呼ぶのは、わたしの兄のこと。
 わたしは知ってる。
「元気ですよ。」
 先輩は、わたしのことなんて見ていない。
 にっこり笑って答えるわたしに、ショウ先輩が目を見張るのも、わたしと兄の顔(特に笑ったときの目元)がそっくりだからだっていうの、知ってる。
「そ、そっか。」
 先輩は、どこかほっとしたように、嬉しそうに笑った。
 先輩が呼ぶわたしの名前には、先輩が呼ぶ「○○ちゃん」と言う名前には、
「そっか。」
 Dの妹、という以上の意味が含まれていないこと、わたしは知ってる。
「○○ちゃん、」
 先輩がわたしの名前を呼ぶ。
 (きこえない。)(ききなくない。)
 ショウ先輩がわたしを通して誰を見てるのか、
「帰ろっか。」
 そんなの、そんなの知ってる。知ってるよ。
(そんなふうに、)(わたしを)(よばないで。)(先輩。)
「はい。」
 先輩、わたしを、呼んでください。
 先輩、わたしを見て、わたしを呼んでください。
(わたしの、)(なまえは、





(060702
Dとマネージャは兄妹。ってことでひとつ。