「ねえこっち向きなよ、なにしてんのさ、そんな黒くて平べったくて無機質なものがきみはすきなんだね、ぼくを無視してさ、いい度胸だよ、きみは自分がどんなに大きな罪を犯そうとしているのかが分かっているのかい、大罪だよ、人間として、分かってるのかい、ねえ、だからこっちを向きなよ、聞いているの、聞いていないの、聞いていないんだったら怒るよ、ねえ、好い加減こっちを向いてよ、こっち、向いてってば、ねえ、ねえ、」 饒舌な王子さま。背中にもたれかかってきて耳元でぶちぶちぶち、例えばこれがセクシーなオネエサマのお声だったりなんかしたらおれは速攻後ろを振り返ってがばっと…いやいやなんでもない。つまり王子さまは王子さまであって王子ってことは男ってことで、女の王子さまなんかいやしない、男装の麗人っていたって女であることに違いはないんだというし。 それにそれに、なんだかこの王子さまの声を聞くのは、例えば学芸会の劇を録画したのを後日道徳の授業で見直して、ワオ自分ってこんな声してるんだって言う驚きのような、ぶっちゃけ王子さまの声はおれ自身の声に瓜二つ通り越して同じな訳なので、なんだか不思議な気分だ。ああこんな声なんだ、意外と、なんていうの…イイ声? 「なに、大罪って。」 一応反応は返してみるけれども振り返ったりはしない、調子に乗ったら今日はこれでオシマイ、だ。まだ色色明日の準備もあるしやりたいこともあるし、ベッドに入るのは早すぎやしないかい、オウジサマ。 「莫迦だなきみは、大罪の意味も分からないとか、言わないよね。」 ただ一言返しただけで耳に届く王子さまの声は弾んで嬉しそうで、少しだけむずかゆかったり構えなくてすまんと思ってみたり、バカにされてるのになんだ自分はもしかしてひとがいいのかと苦笑をしてみたり。 「いや、それは流石に言わねーし。」 「うん、当たり前だね。」 この世界がまんがだったら、枠線にはみ出さんばかりの点点が散って、にこりとかそういう文字が飛ぶんだろう。会話の内容は関係無しに、おれが反応するとそれだけで機嫌をよくする王子さま、なんだか実は簡単なやつなのだ。 「あのねえ、きみは、ぼくを無視してはいけないよ、ぼくを否定してはいけないよ、自分を否定するのと同じことだからね、」 「あー、ああ、オッケ。」 「自分が自分であるためにはまず、自分が自分であると自分が認めなければいけないんだ、」 「うん。」 「きみはぼくで、ぼくはきみ、否定されたら消えてしまうかもしれない、儚いね、でも、そうならないという確証がないからね、どうだい、ぼくが消えてもいいかい。」 にこりにこりと弾む声で、おれと同じ声で、おれの耳元で、 「そりゃ、やかな。」 さらりと簡単に怖いことを言ってくれる。 「ありがとう、うれしいよ。」 はいはいと生返事をしていると背中の方から声だけじゃなくて手とか足とかが伸びてきて、あああれだ、雁字搦め? 「なにしてんだよ、動けねえって。」 「え、いいよ、別にきみは動かなくても、ぼくに任せて。」 「いや、そうじゃねーし。」 首筋に温かい唇の感触と、対照的に腹の辺りに冷たい指が這って、思わず手にしていたものを取り落とす。うわあ。なんでなんでなんで、いまの会話からそういう行為に繋がるんだ、いや待てよく考えたら別に繋がっているとも限らないし、この王子さまはこっちの都合も前後の雰囲気も関係無しにやりたいことをやっちゃうお方なのでしたっけそういえば。 「お前さあ、」 でもなんだかんだで抗えないのは、自分が一番知ってて、同じくらい相手もそのことを知ってる。 「自分同士でこれって、どうなの、問題ねー?」 だけど少しだけ抵抗を試みた。相手の方が上手だって言うのは、承知の上だけどさ。 「なに言ってるの、自慰のどこに問題があると?」 もういいよおれはお前に敵わねーの、よく知ってるよ。 「だって、一緒にいられる時間、決まってるんだよ、ぼくたちまた気がついたらひとつなんだよ、だったらふたりでいること、満喫しようよ。」 他に方法はいくらでもあるだろうと、言いたかったけど。なにこれ、もう喋れねーってどうなの、盛りすぎだよ自分。 「だからさ、ね、ひとつになろうよ。わあ、なんかこの言い回し、笑えるよね。」 こっちは泣きそうだよ、バーカ。 +++ (051110(無題)王子DJを推したい。基本はひとりでエムの気まぐれでたまに分裂。 (恐らく今後口調やらキャラは各篇の可能性大。 |